2013年4月6日土曜日

悪戯/徒


窓の外に、なんかが見える。何だ、あれ…?
首は正面に向けたまま、視線だけをズラす。
あー、妖精か。見たことないタイプだけど。
トラディショナルとか、アジアとかそんな。
向こうにも妖精は居るんだ。知らなかった。
いや、カッコが違うだけかな。まぁいいや。
チラリ。まだ居る。ずーっと見てる。何だ?
見られて困る事はしてないけど、困るなぁ。
やりづらいなぁ。気にしなきゃいいんだが。
見ちゃったからなぁ、見ないフリは難しい。
あ、そうか。逆に考えるんだ。追い払おう。
わざとらしく首ごと窓のほうに視線を送る。
これでどうだ。あれ、まだ居るぞ。変だな。
あっ、これ紙じゃねぇか!
テープで留めてあるし。やられた!

開花


「諸君、おはよう。春がきたぞ」
「Zzz…」
「まだ2月ですよ?」
「暦がどうとかではない。春は、春だ」
「春なう、とかそーいう?」
「え、春一番ってまだですよね」
「気象庁に吹かなかっただけである」
「あー、そんなこと言ってましたね」
「ねてるー」
「人は人、自分は自分ですよー」
「どっちの意味?」
「人間と一緒にされては困る」
「あぁ、そういうヒトか」
「花が咲いたら春である。自然の摂理だ」
「うぁ、適当」

啓蟄



久しぶりに、息子を連れて公園に来た。
ここは自然も多く、危険な遊具もないので
言葉どおり、手放しで遊ばせていられる。
だけど、今日は息子の様子がおかしい。
しきりに私の袖を引っ張って、
公園のどこかへ連れて行こうとする。
何か、見せたいものがあるらしい。
今までにはこんなことはなかったのに。
危険があるといけないから案内されるまま
息子についていく。すると、ある樹の前で
袖を引く力が弱くなった。この樹が…?
すると、あの虫なぁに、と訊かれた。
どれだろう。アブラムシくらい小さい虫は
幹に沢山いるんだけど。それじゃないみたい。
大きくて、黒くて、3匹居る、らしい。
鳴いたり、合図したり、手招きしてるらしい!
何なの!?
気持ち悪くなった私は、息子の手を引き
公園から逃げるように立ち去った。

春幻



「絵本から抜け出したような」なんていう、
馬鹿げた表現が、でもなぜか、自然にそう、
思わせるような、何か変わった格好をした、
美しい女性を、目の当たりにしてしまった。
もちろん、周囲を考えれば不自然なのだが、
不思議と、そんな違和感を抱くことはなく、
さも当たり前のように、見ることができた。
僕は、と言えば、特別に何か行動を起こす、
という訳でもなく、奥手な性格も手伝って、
ただただ、傍観しているのが精一杯だった。
こちらの視線に気づいたのでだろう彼女は、
まるで、見られたこと自体に驚いた表情で、
その場から消えて、居なくなってしまった。
ここで初めて、彼女がどういう存在なのか、
そして、自らの行動力の低さを、理解した。